フキゲン課長の溺愛事情
(この人って達樹の元同棲相手で、プロポーズまでした人じゃない……)

 彼は今、元カノの結婚式に出席しているのだ。

 それに気づいたとたん、璃子の頭の中に達樹の声がこだました。

『水上に美咲を重ねて見た、というのは厳密に言えば違う。ふたりの状況を重ねて見た、というのが正解だな』
『もうこの話はやめよう。今は美咲の話はしたくない』

(でも、達樹は毎朝、私にキスしないように自制してたって言ってたし、私と一緒にいると癒やされるって言ってたし)

 大丈夫、今はもう美咲さんのことは好きじゃないはず。

 けれど、自分にそう言い聞かせようとすればするほど、落ち着かない気分になった。

 美咲の結婚式の前日に璃子を抱いたのは、美咲に会う不安を消したかったからではないのか。なにしろ、相手は一生をかけて幸せにしたいと思った人なのだから。

 璃子は不安で胸が押しつぶされそうになりながら、電車を降りて、シーサイドホテルへ向かった。ホテルは駅から徒歩十分ほどの場所にあり、敷地は開放的で、きれいな芝生の庭にチャペルがあった。今日は快晴で、抜けるような青空に白い尖塔が映えている。
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