フキゲン課長の溺愛事情
 優太が目を大きく見開いた。

「啓一の思い出がいっぱいある部屋にいたくないの。啓一と一緒に買った家具や家電や食器……そんなものに囲まれたくない! 啓一と三年も暮らした部屋にひとりで寂しくいたくないの! あんたのことは新人のときから面倒を見てあげたんだし、そろそろ恩を返しなさいよっ」

 璃子に無理難題を突きつけられ、優太がたじたじとなる。

「いや、あの、恩なら仕事で返してると思います!」
「コーヒー淹れたり、コピー取ったり?」
「それに印刷会社まで走ったり、電器店まで買い物に行ったり!」
「それだけじゃ足りないなぁ」

 璃子は目をトロンとさせたまま優太ににじり寄った。そんな彼女の肩に、沙織があわてて片手をのせる。

「いや、璃子、家に帰りたくない気持ちはわかるけど、それ、パワハラとかセクハラとかになるから」
「沙織まで~。じゃあ、沙織の部屋に泊めてよ~」

 璃子は振り返って沙織に抱きついた。頭は酔って思考回路は停止寸前だけど、沙織の家に泊めてもらえないことはわかっていた。

「ごめん、璃子。私も今、彼の部屋に住んでるってことは知ってるでしょ……」
「そうだよね……」
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