フキゲン課長の溺愛事情
 啓一が駅前のチェーン展開しているカフェを指さした。

「そうね」

 横断歩道を渡ってふたりでカフェに入り、カウンターでそれぞれドリンクを注文した。駅の見える窓際の席が空いていたので、璃子は座ってショルダーバッグを腰のうしろに置いた。隣の椅子に啓一が腰を下ろし、テーブルの上にA4サイズ大の白い紙袋を置く。

 璃子にすれば、彼の方からお茶に誘ってくるなんて、先週のことを考えたら信じられないことだ。

(なにかあったんだろうな)

 ぴんと来て啓一を見たが、彼は黙ったままホットコーヒーを見つめているだけだ。仕方なく璃子の方から口を開く。

「なにか……あったんだよね?」
「わかるかな?」

 啓一が顔を上げた。今まで何度も見たことのある、悩んでいるような眉尻を下げた顔だ。

「わかるよ。啓一がそんな顔をするときは、なにか問題を抱えてるときだもん」
「そうだね……。璃子は俺のこと、なんでもわかるんだったよね」
「そんなことないよ。啓一が二週間も和田さんの部屋に泊まってたなんて気づかなかったし」
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