フキゲン課長の溺愛事情
「疲れたんだよ。頼ってくれるのと、ワガママを押し通すのとは違う。最初はかわいく頼ってくれてうれしかったのに、気に入らないとすぐ拗ねるしかんしゃく起こすし……」

 啓一が璃子を見た。眉を寄せて切なげな表情で。

「俺、なんで璃子と別れたんだろう」
「やめてよ」

 璃子は反射的に立ち上がっていた。

「五年も付き合った私じゃなくて、彼女を選んだのは啓一でしょう? 今さらそんなこと言わないで」

 璃子のプルオーバーの腕を啓一が掴んで、訴えるような目で、すがるように見上げる。

「後悔してるって言ったら……? 五年も付き合ったんだ。俺への気持ち、璃子の心に少しくらい残ってないの?」

 彼のそういう目に弱くて、今までならなんとかしてあげたいと思った。でも。

「残ってない。残ってるわけないじゃない」
「俺のせい……?」
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