フキゲン課長の溺愛事情
「大ありよ」
「仕事のこと? 一応同期だし、俺でよければ聞こうか?」

 そう言われて、璃子は啓一に視線を戻した。気遣うように見つめられて、璃子は一瞬、彼にぐちゃぐちゃに乱れる心の中をぶちまけようかと思った。けれど、考え直して首を振る。そもそも、啓一が浮気さえしなければ、こんなに泣いたり苦しんだり……達樹のことを好きになったりしなかったはずなのだ。そう思うと、啓一に話したい気分にはなれなかった。

「いい。ひとりで泣きたい気分だから」
「璃子でも泣くんだ」
「あたり前でしょ! あなたは知らないでしょうけど、あなたのせいで何度も泣いたんだから」
「……ごめん」
「とにかく、今日はこれでさよなら」

 璃子はショルダーバッグを肩にかけた。歩き出そうとする彼女に、啓一がぽつりと言う。

「璃子にとって俺は頼りたい男じゃないんだよな……?」

 璃子は振り返って啓一を見た。

「頼らせてくれなかったでしょ」
「俺は頼ってほしかった」
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