フキゲン課長の溺愛事情
 沙織に言われて、璃子はまたオレンジサワーを口に含んだ。

 沙織はなかなか話そうとしない璃子の口を割らせようと、シーザーサラダをのせた皿を差し出しながら、水を向ける。

「私が『恋愛関係になったりしないの?』って訊いたとき、『そんな気になれないし、向こうにだってその気はないと思う』って言ってたのに、好きになっちゃったとか?」

 璃子は皿を受け取ってうなずいた。

「なっちゃった」
「それなのに、相手に恋人がいたとか?」
「恋人は……いないって言ってた」
「じゃあ、なにが問題なの?」
「前の恋人を忘れられないみたい」
「璃子の魅力で忘れさせてあげたらいいのに」

 沙織に軽い調子で言われて、璃子は首を振った。

「忘れてくれなかった」
「どういうこと?」

 沙織に訊かれて、璃子はまたグラスについた水滴を指でなぞりながら、ぽつりぽつりと説明を始めた。
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