フキゲン課長の溺愛事情
 璃子は沙織から手を離した。沙織は男友達の紹介で付き合い始めた彼氏と、半年前から同棲しているのだ。

「ということは、やっぱり青葉くんしかいないわよね~。先輩の私を泊めなさい!」
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよーっ」

 璃子ににじり寄られ、優太が顔の前で激しく両手を振った。

「先輩のお願いが……命令が聞けないって言うの!?」

 璃子はさらに優太に詰め寄った。優太がゴクリと喉を鳴らして言う。

「水上さん、俺も一応男だってわかってます?」
「あ、今度はそういう断り方をするか!」

 そう言った直後、璃子はぐっと言葉に詰まった。酸っぱいものが逆流してくるのを感じて、反射的に息を止める。

「うぇ……」

 その蒼白な顔を見て、優太がうろたえる。

「水上さん、大丈夫ですか?」
「ぎぼぢわるい……」

 本人は〝気持ち悪い〟と言ったつもりだったが、とてもそうは聞こえない。それでも、さすがの優太も今回ばかりは意味を理解したようだ。
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