フキゲン課長の溺愛事情
「あのとき、あそこにいたのか?」
「はい。課長を探して、ホテルからチャペルへ行こうとしてたんです」
立ち聞きしてしまったことが気まずくて、璃子は視線を落とした。
「その続きも聞いたんだろうな?」
「い、いいえ……」
達樹が大きく足を踏み出したので、璃子はよろよろとうしろに下がった。璃子の背中がトン、と廊下の壁にあたり、彼女を囲うように達樹が壁に両手をつく。
「『あんな形で抱くべきじゃなかった』の後に、『失恋して、行くところがなくて、傷ついている彼女の心につけ込むようなことをしてしまった。彼女が完全に吹っ切れるまで、待つべきだったのに』って言ったのに」
「そうだったんですか……?」
璃子の言葉を聞いて、達樹が壁についた手の甲に額を押しあて、苦しげな口調で言う。
「帰ったら璃子がいないから、悪い想像ばかりしてしまった。璃子が俺に抱かれたのは酔った勢いで、ホントは後悔して俺から逃げ出したんじゃないのか、とか。行くところがないはずなのに、どこへ行ったんだろうって心配でたまらなかった。帰ってきた、と思って安心したのに、やっぱりよそよそしい敬語で話して俺を『課長』と呼ぶんだな」
「はい。課長を探して、ホテルからチャペルへ行こうとしてたんです」
立ち聞きしてしまったことが気まずくて、璃子は視線を落とした。
「その続きも聞いたんだろうな?」
「い、いいえ……」
達樹が大きく足を踏み出したので、璃子はよろよろとうしろに下がった。璃子の背中がトン、と廊下の壁にあたり、彼女を囲うように達樹が壁に両手をつく。
「『あんな形で抱くべきじゃなかった』の後に、『失恋して、行くところがなくて、傷ついている彼女の心につけ込むようなことをしてしまった。彼女が完全に吹っ切れるまで、待つべきだったのに』って言ったのに」
「そうだったんですか……?」
璃子の言葉を聞いて、達樹が壁についた手の甲に額を押しあて、苦しげな口調で言う。
「帰ったら璃子がいないから、悪い想像ばかりしてしまった。璃子が俺に抱かれたのは酔った勢いで、ホントは後悔して俺から逃げ出したんじゃないのか、とか。行くところがないはずなのに、どこへ行ったんだろうって心配でたまらなかった。帰ってきた、と思って安心したのに、やっぱりよそよそしい敬語で話して俺を『課長』と呼ぶんだな」