フキゲン課長の溺愛事情

「うわーっ、待って、水上さん！」
「あぼばぐん……」

　ろれつの回らないまま、璃子が優太の名字を呼び、彼があわてて璃子の脇の下に手を入れた。

「トイレ！　トイレ行きましょう、水上さん！」
「どいれどこ～」

　優太が力の抜けた璃子を抱えるようにしながら彼女を立たせた。

「璃子！」

　沙織があわてて座敷の戸襖を開けた。ちょうど料理を運んできた着物姿の女性店員が驚いて一歩下がる。

「璃子、もう少しこらえて！」

　沙織が璃子を逆側から支えた。優太と沙織に支えられながら、璃子はよろよろとトイレに向かう

「どいれよりあぼばぐんぢにいぐ～」
「璃子、ちょっとしっかりしなさい！」
「水上さんっ」

　璃子の脚から力が抜け、体が前後に揺れた。頭の中がふわふわとして、どこか別の場所に行ってしまったように辺りがぼんやりとにじんで見える。