フキゲン課長の溺愛事情
「襲うのも触れるのもダメなんですか?」
「おまえは意味がわかってるのか!? 俺が今、どれだけ必死で自制してると思うんだっ……」

 達樹が声を荒げ、璃子は両手を伸ばして達樹の頬を包み込んだ。伸び始めた髭で頬がざらついていて、その感触さえ愛おしいと思う。

「私、言いましたよね? 『課長には本当に感謝しています』って。『心が折れたとき、折れそうになったときに、そばにいてくれたから』って。私、きっとあのときから、課長のことを好きになったんです」

 達樹がハッとしたように璃子を見た。

「水上……」
「課長が言ったんですよ、『今は会社じゃない』って」

 言った直後、璃子は達樹の腕の中にとらわれていた。

「ああ、璃子……!」

 達樹が感情をぶつけるように璃子を強くかき抱いた。息ができないほどギュウッと抱きしめられて、璃子は喘ぐように彼の名を呼ぶ。

「……た、つき……」
「すまない」
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