フキゲン課長の溺愛事情
「青葉くんが言ってるのって……日ロ食品がくれた試食品のカップラーメンのこと?」
「そうですよっ。ほかになにがあるっていうんですか! うちの〝スープ濾しに最適! 濾し目が極細の濾過布〟を使ってスープを取ったラーメンなんですよっ。しかも俺、豚骨味が一番好きなのにっ!」

 その言葉に璃子はずっこけそうになった。

「あ、そう……カップラーメンのこと……」
「あ、そう、じゃありませんよっ。俺、まだ二個しか食べてないのにっ」
「ご、ごめんね」

(達樹と付き合ってることに気づかれてたんじゃなかったんだ)

 璃子は安堵してホッと肩の力を抜いた。

 たしかに隣の部署に行ったときは、隅に積まれている段ボール箱にまだカップラーメンが残っているか気になって、ついついじいっと見てしまっていた。なにしろ、あの日ロ食品のカップ麺は、OSK繊維開発が開発した極細目の濾過布を利用してスープを取っているため、インスタントなのに繊細な味わいが楽しめる、と人気の商品なのだ。試食品だから希望者は食べていい、と言われていたので、残業のときに何個か――優太に言わせるとひと箱分ほど――食べていた。

「残りの五個、水上さんはもう食べちゃだめですよっ!」

 優太が言ったとき、広報室のドアが叩かれる音がした。璃子が視線をそちらに向けると、優太が開けっ放しにしていたドアの横に達樹が立っている。

「おはよう」
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