フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が不機嫌な表情で優太を見るので、優太がぴしっと背筋を伸ばした。

「お、おお、おはようございます、藤岡課長!」
「おまえはいつまで水上の手を握っているつもりだ?」

 達樹に言われて、優太はパッと手を離した。

「あ、す、す、すみませんっ」

 達樹が目を細めるのに合わせて、優太の額にじわっと冷や汗が浮かんだ。それを見て璃子は吹き出しそうになったが、懸命に表情を引き締めながら達樹に問う。

「課長、なにかご用ですか?」

 達樹が璃子に顔を向けたとたん、彼の表情が柔らかくなった。

「室長昇格の辞令が出される。総務部長室に来い」
「あ」

 今日は五月一日だということを、璃子はすっかり忘れていた。

「すぐに行きます!」

 答えた璃子の頭に、達樹がポンと手をのせた。

「水上室長、おめでとう」
「ありがとうございます」
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