フキゲン課長の溺愛事情
「職場で秘密にしたいと言っていたのは璃子の方だろう」
「まあ、そうですけど」

(これじゃ、〝不機嫌課長〟の仮面をいつか絶対剥がしてやるって決めてたけど、無理そうね)

 璃子のそんな思いなど知らない達樹は、まるで仕事の約束でもするかのようにさらりと言う。

「18時半に駅前だ。いいな」

 それでも、彼と出かけられるのだ、と思うとうれしい。

「わかりました。それじゃ、行ってきます!」

 璃子は元気な声で言って、エレベーターホールに向かった。下りボタンを押したとき、広報室から沙織が出てきて、璃子に追いついた。

「璃子」
「あ、沙織、どうしたの?」

 怪訝な顔で問う璃子の耳に、沙織がささやく。

「その調子じゃ、いつバレるかわからないよ?」
「え?」
「璃子を見るときの課長、ぜんぜん〝不機嫌課長〟じゃないんだもん」
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