フキゲン課長の溺愛事情

　璃子のつぶやきを聞いて、菜子が頬張っていたマグロの握りを飲み込んでから言う。

「あれはきっと、藤岡さんがどれだけ璃子姉のことを好きか、言葉にしてほしかったんだと思う。はっきりした言葉を聞いて、安心したかったんじゃないかな」
「そっか……」
「それよりお姉ちゃん、あんなイケメン上司とどうやったら付き合えるのか教えてよ！」

　この四月に社会人になったばかりの麻子が会話に入ってきた。

「麻子はまずは仕事をしっかりやりなさい！　入社したばかりでしょうが！」

　母が言って、麻子と璃子の間にお尻をねじ込んだ。

「もう、狭いぃ！」

　麻子が文句を言って立ち上がり、ソファの肘掛けにお尻をのせた。

　母が璃子を見て言う。

「あのね、お父さんもお母さんも、ただ璃子が心配なだけなの。昔から、璃子はなんでも自分でしなきゃ、と思うところがあったでしょ」
「うん」
「でも、補い合える、支え合える関係なら、いいと思う。私もお父さんとは支え合ってきたのよ」