フキゲン課長の溺愛事情
「こっち」
「どこへ行くの?」
「しっ」

 達樹が人差し指を立てて唇にあてたので、璃子は黙って彼に促されるまま歩いた。新郎新婦を取り囲む参列者から離れて、芝生の庭を歩く。チャペルの陰に来たとき、達樹が足を止めた。璃子は彼を見上げて言う。

「まだフラワーシャワーの途中よ」
「それは知ってる。でも、プロポーズにOKをもらったら、璃子にキスするって決めてたんだ」

 達樹の言葉に、璃子ははにかみながら答える。

「髪にしなかった? それも人前で」
「それじゃ足りないな」

 達樹が言って端正な顔を傾け、璃子の唇に軽くキスを落とした。

「それじゃ足りないな」

 璃子は達樹の口調を真似て、彼の首に両腕を絡めた。この幸せな気分をもっと味わいたい。そんな気持ちがあふれるように湧き上がってきて、抑えがきかなくなってきた。

「未来の花嫁さんは積極的だな」
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