フキゲン課長の溺愛事情
「俺の歓迎会で、青葉に迫りまくっていただろう?」
「あ、青葉くんに!?」

(じゃあ、あれはやっぱり悪夢なんかじゃなくて、現実……)

 そう思ったとたん、目から涙がこぼれた。達樹がギョッとしたように言う。

「今度は泣くのか」
「だって……」

 いったん安心したのに、啓一とのみじめな別れを動かぬ現実として突きつけられたのだ。璃子はあふれ出る涙を止めることができなかった。なぜほかの課の上司が部屋にいるのか、同じベッドにいるのか。それを訊かなければいけないのに、璃子の唇から漏れるのはその疑問の言葉ではなく、泣き声だった。

「そうか、水上はまだ泣いてなかったんだな」

 達樹が低い声でしんみりと言った。

「だって……泣くヒマなんてなかったんですよっ! 付き合って五年……同棲して三年になる彼氏に……ほかに好きな子ができたって言われて……でも、すぐに課長の歓迎会があって……」
「……ずっと我慢してたんだな」

 達樹の低い声が聞こえてきたかと思うと、彼の手が伸びてそっと璃子の肩に触れた。えっと思ったときには、璃子は達樹の腕の中に抱き寄せられていた。
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