フキゲン課長の溺愛事情
「気の済むまで泣くといい」

　怖いとさえ思っていたいつも無愛想な上司の腕の中だったが、そんなことを意識するよりも、胸の中の悲しみと痛みの方が強かった。温かな腕に包まれ、抑え込んでいた気持ちがついに爆発した。

「け……啓一のバカぁ！」

　璃子は達樹のワイシャツの胸を掴むと、声を上げて泣いた。



　どれくらいそうしていただろう。

　さすがに泣くのに疲れて、璃子はそっと達樹の胸から顔を起こした。達樹は相変わらずあぐらをかいたままだったが、璃子の背中から手を離した。

「大丈夫か？」
「そんなわけないです。大丈夫になんかなれません」

　璃子の言葉を聞いて、達樹が小さく息を吐いた。

「そうだろうな」

　怒っているのか呆れているのか、あるいはそのどちらでもないのかよくわからない彼の声を聞いて、璃子はハッと我に返った。

（私、かりにも上司に対してなんてことを……）

　あわててベッドに両手をついて頭を下げた。
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