フキゲン課長の溺愛事情
「も、申し訳ありませんっ!」
「今度はなんだ」
「か、課長に対して、私、なんてことを……っ」
「今さら気にすることじゃない」

 達樹の言葉がそっけないのは、やはり怒っているからだろうか。

 璃子がさらに低く頭を下げようとしたとき、その顎に達樹の手が触れた。そしてそのままくいっと持ち上げられる。

「どこまで記憶がある?」
「へ?」

 璃子の間抜けな返事を訊いて、達樹が眉を寄せる。

「どこまで覚えてるんだ、と訊いたんだ」
「あ、えと……あの、青葉くんと沙織に支えられてトイレに連れて行かれたところまで……」

 達樹が呆れたようにため息をつき、璃子の顎から手を離した。

「その後のことは?」
「その後……私、なにをしましたでしょうか」

 漠然とした不安が込み上げてきて、璃子の胃がヒヤリと冷たくなる。

「覚えていないのか」
「覚えて……ません」
「『私が帰るのはあんたの部屋なんだからねっ』と言って廊下で青葉を押し倒したんだ」
「わわわわっ。そんな……嘘ですよねっ!?」
「おまえは嘘だと思いたいのだろうが、あいにく俺は嘘は言わない」
「ひぇーっ」
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