フキゲン課長の溺愛事情
「部下が目の前で困っているんだ。手助けしようとしてなにが悪い?」
「いえ、それも悪くはないと……思います」

 璃子は数秒前と同じ言葉を発していた。

「それなら、上司の厚意は素直に受け取れ」
「でも……」
「でも、なんだ」

 達樹の口調がわずかにいら立ちを帯びた。ふたりきりで話していたせいか、璃子は達樹の感情の変化が少し読み取れるようになった気がしていた。

「でも……やっぱり恋人でもない男女が一緒に暮らすのは、社会的に見ておかしいと思います」
「社会的に、か」
「せっかくの課長のご厚意を無にして申し訳ありません。自分でどこか引っ越し先を探します」
「意外とお堅いんだな、水上は。ただのルームシェアだと思えばいいのに」

 そう言った達樹の口調はどこか楽しげだった。

「そうです、意外とお堅いんです、私」
「覚えておくよ」

 達樹は璃子の頭にポンと軽く手をのせ、彼女に背を向ける。

「それでも、朝飯くらいは食って帰れ。そのくらいの厚意は受けろ」

 これ以上断りの言葉を並べるのは逆に申し訳ない気がして、璃子は素直に「はい」と答えた。達樹が振り返って言う。
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