フキゲン課長の溺愛事情
「ようやく肯定の返事がもらえたな」

 その口もとがわずかに上がっているのは、笑っているからなのだろう。

(無愛想だけど、プラスの感情がないわけじゃないんだ……)

 それはあたり前のことなのかもしれないが、璃子にしてみれば〝不機嫌課長〟に関して新しい発見をした気分だった。

 達樹に案内されたダイニングでも、璃子は、カウンターキッチンの向こうでトースターにパンを入れる彼の顔をまじまじと観察してしまう。

(今はいったいなにを考えてるんだろう……)

「こら」

 達樹が眉を寄せたので、璃子はビクッとなった。

「人の顔をじろじろ見てないで、大人しく座っていろ」
「そういうわけにもいきません。お手伝いさせてください」
「じゃあ、卵でも割ってくれ」

 達樹が大きな冷蔵庫を空けて、卵を三つ取り出した。

「わかりました」

 璃子がカウンターに卵を打ちつけるのを見て、達樹が早口で言う。

「おい、待て。まだボウルを出していない」
「あ、すみません」

 あわてて手を止めたが、ときすでに遅く、ひびの入った卵から白身がたら~っと垂れて落ちた。
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