フキゲン課長の溺愛事情
「きゃあ、どうしましょう!」
「あわてるな」

 達樹が上の棚からボウルを出してカウンターに置き、璃子の手を掴んでその上に導いた。

「カウンターがベトベトになっちゃいましたよ」
「拭けばいい。気にするな」
「あ、はい」

 璃子が卵を割っている間に、達樹が布巾で手早くカウンターを拭いていた。

(課長っていちいち冷静だわぁ。この人でもあわてたりすることあるのかなぁ)

 とはいえ、ボウルを出す前に璃子が卵を打ちつけたのを見て、彼は早口になっていた。

(もしかして、あれが焦ってたのかな?)

 璃子がチラリと見ると、達樹はもう卵を手早くかき混ぜ、バターを溶かしたフライパンに流し入れていた。それを手際よく混ぜ、あっという間にふわふわのスクランブルエッグを作り上げた。

「わあ、課長、上手ですね。おいしそう」
「ストックホルムではひとり暮らしをしてたからな」
「ストックホルムでは? じゃあ、スウェーデンに赴任する前はご実家で暮らしてたんですか?」

 璃子の問いかけに、スクランブルエッグを皿に盛っていた達樹の手が止まった。
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