フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が目を細めて璃子を見た。整った顔でそれをされるとものすごく怖くて、最後はしどろもどろになった。

「ほう」
「いえ、あの、それだけですっ。プロポーズを受けたらちゃんと課長の歓迎会に出席します! も、もも、もちろん時間厳守で!」
「なるほど、時間厳守なんだな。五年離れていた間に、社が時間にルーズな若者だらけになっていたらがっかりするところだったよ」

 達樹がそう言ってくるりと背を向け、広報室を出ていった。璃子は大きく息を吐き出し、そっと歩いて行って静かにオフィスのドアを閉める。

「もう、ドアを開けっ放しにしたのは青葉(あおば)くんだな~。まさか藤岡課長本人に聞かれちゃうなんて。冷や汗かいちゃったよ」

 璃子は額の汗を拭った。沙織が首をすくめて言う。

「うう、さすがに〝不機嫌課長〟だ。怖かったよぅ」
「ホント。課長って普段から無愛想でなに考えてるかわからないけど、やっぱりさっきは気を悪くしたよね~?」
「普通の人なら絶対怒るよ」

 璃子は沙織と顔を見合わせた。

「歓迎会、絶対遅刻できないわ」
「だね。それにしても『若者だらけ』って。藤岡課長っていくつだっけ?」
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