フキゲン課長の溺愛事情
沙織の問いかけに、璃子は四月上旬に見た社内回覧の内容を思い出しながら答える。
「たしか……今は三十二歳じゃなかった? 私たちと同じ、入社六年目になる年に出向って形でストックホルムのエコタウン研究センターに赴任したって書いてあったよ。で、五年間、あっちのエコタウン開発に関わってたって」
「ひえー、そんなデキる上司に目をつけられたら大変だ」
沙織が言って、わざとぶるぶると震えてみせた。
「うん、絶対に仕事がやりづらくなるよね。啓一と会ったら、残念だけどすぐにバイバイして歓迎会に行くから」
「プロポーズの言葉、なんだったか後で教えてよ」
「まだプロポーズされるって決まったわけじゃないって」
そう言いながらも、璃子は胸が期待に膨らんでしまうのをどうしても抑えられなかった。
「それじゃ、あとでね」
璃子は沙織に手を振り、オフィスを出てエレベーターホールに向かった。やってきたエレベーターに乗って一階に下りる。恋人で同棲相手の山城啓一からは、昼休み中にメッセージアプリで連絡が来て、会社の近くのカフェで会うことになっていた。彼も璃子と同じOSK繊維開発で働いているが、所属する繊維研究所は敷地の外れ――オフィス街から一番離れた一角――にあるため、仕事時間中に顔を合わせることはほとんどない。
「たしか……今は三十二歳じゃなかった? 私たちと同じ、入社六年目になる年に出向って形でストックホルムのエコタウン研究センターに赴任したって書いてあったよ。で、五年間、あっちのエコタウン開発に関わってたって」
「ひえー、そんなデキる上司に目をつけられたら大変だ」
沙織が言って、わざとぶるぶると震えてみせた。
「うん、絶対に仕事がやりづらくなるよね。啓一と会ったら、残念だけどすぐにバイバイして歓迎会に行くから」
「プロポーズの言葉、なんだったか後で教えてよ」
「まだプロポーズされるって決まったわけじゃないって」
そう言いながらも、璃子は胸が期待に膨らんでしまうのをどうしても抑えられなかった。
「それじゃ、あとでね」
璃子は沙織に手を振り、オフィスを出てエレベーターホールに向かった。やってきたエレベーターに乗って一階に下りる。恋人で同棲相手の山城啓一からは、昼休み中にメッセージアプリで連絡が来て、会社の近くのカフェで会うことになっていた。彼も璃子と同じOSK繊維開発で働いているが、所属する繊維研究所は敷地の外れ――オフィス街から一番離れた一角――にあるため、仕事時間中に顔を合わせることはほとんどない。