フキゲン課長の溺愛事情
　達樹の口調は冷静だったが、友紀奈はさらに声を荒げた。

「私は水上さんに話してるのっ！」

　かりにも課長に対してなんという態度だろう。璃子は見かねて友紀奈に歩み寄った。

「ねえ、あなたが私に腹を立てているのはわかったけど、藤岡課長は経験豊かな先輩で、あなたよりずっと年上なのよ？」
「うるさいっ。アメリカでは敬語なんか使わないのよっ」

　友紀奈が手を伸ばして璃子の肩をドンと押した。思わずよろけた璃子の両肩を、背後にいた達樹の大きな手が支えてくれる。

「それでも、相手に対して敬意を表す方法はある」

　達樹の声がわずかに低くなっていて、璃子はハッと肩越しに彼を見上げた。いつも感情の読み取れない目が、細められている。

（怒ってる……？　いや、まあ、そりゃ普通は怒るか）

　璃子が友紀奈に視線を戻すと、彼女は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「私は別に派遣だから、こんな会社に思い入れなんてない！　いざとなったら啓一さんが養ってくれるわ」
「でも、啓一はまだ平社員だし、あなたを養うのは厳しいかも」
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