フキゲン課長の溺愛事情
 璃子は友紀奈のブランドもののパンプスに視線を落とした。有名海外ブランドのロゴがあしらわれたそのパンプスは、誰が見ても十万円以上するとわかる。

「啓一さんに言いつけてやるんだからーっ」

 友紀奈は子どものように喚いて、璃子を押しのけるようにしながら休憩室を出て行った。残された璃子はぽかんとそのうしろ姿を見送る。

「啓一という男は女性を見る目がないらしいな。俺には水上の方がずっといい女に思えるのに」

 達樹がボソッと言った。その言葉に目頭が熱くなり、璃子はあわてて瞬きをする。

 課長の言葉にウルッときたのだとはいえ、今ここで泣いたら、友紀奈に泣かされたみたいだ。それは悔しい。

(絶対に泣かない! そうよ、課長の言う通り、女を見る目のない啓一の部屋なんか、お望み通りさっさと出て行ってあげるわっ!)

 瞬きを繰り返して涙を散らし、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。振り返って上司を見上げる。

「課長、お願いがあります」
「なんだ?」
「新しい部屋が見つかるまで、課長の空いている部屋に荷物を置かせてください」

 璃子の言葉に、達樹がわずかに首を傾げた。
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