フキゲン課長の溺愛事情
 問われて、璃子は目を泳がせた。璃子が〝みんな〟と言えるのは、広報室の面々――それもわずか三人――だけだ。

「そ、それより、どうせならランチに行きませんか? 食事をしながらインタビューをするっていうのはどうかな~なんて」
「ほう」

 達樹に目を細めて見られ、璃子は焦りながら意味もなくトートバッグの中を掻き回す。

「あー、ほら、一緒に住むなら役割分担とかもしなきゃいけないと思うし、そういう話をこんなところでして誰かに聞かれても困るじゃないですか」
「水上は俺とのルームシェアがみんなに知られたら困るというわけか」
「え、普通、困りますよ。課長は困らないんですか?」
「水上は実は彼氏に振られたんじゃなく、新しく同居する相手ができたから彼氏を振ったんだってことにできるかもしれないのに」

 達樹に言われて、璃子は眉を寄せて彼を見上げた。

「なんですか、それ。そんな見栄張ったってバレバレですよ。私の醜態は居酒屋でみんなに見られてしまったんですから」
「それなのに堂々と会社に来る水上はある意味すごいな」
「そんなことぐらいで私が突然会社を辞めたりするとでも思ったんですか? そりゃ、たしかに恥ずかしくて今でも思い出したら赤面ものですけど、私、この仕事、好きなんです。恥をかいても彼氏に振られても辞めませんよ。いつか絶対挽回してみせます!」
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