フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が物珍しそうに公園を見回し、璃子もつられて辺りを見た。青々と葉を茂らせた桜の木の下で、花壇のサツキツツジが小さなピンク色のつぼみをたくさんつけている。もう二週間もすれば五月だ。

 達樹が長い手脚を気持ちよさそうに伸ばした。

「こんなところに公園があったなんて知らなかったな」
「ちょっとしたオアシスって感じでいいと思いませんか? 三年前に新築マンションが建ったときにできたんですよ」
「俺がストックホルムにいる間か」
「はい。そろそろ食べませんか? 私、お腹ペコペコで」
「そうだな」

 達樹が紙袋からホットコーヒーの入ったスチロールカップを取り出した。

「それじゃ、さっそくいただきます!」

 璃子は例のごとく手を合わせて、自分の紙袋を開けた。今日選んだのは、ライ麦パンのクリームチーズとサーモンのサンドウィッチだ。それを頬張っていると、達樹が璃子に問う。

「水上はこんなふうによく公園で食べるのか?」
「はい。沙織と――あ、河原崎と――一緒に来たりもします。たまに青葉くんも交ざるんですよ。だって、ほら、広報室ってすごく狭いじゃないですか。もともと倉庫として使われていただけあって暗いし陰気だし。だから、だいたい外に食べに行くんです」
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