フキゲン課長の溺愛事情
「なるほど」
「課長はお昼はいつもどうされているんですか?」
「だいたい社食に行く」
「そうなんですね。あ、そうだ、晩ご飯は私が作りましょうか? 役割分担ってことで」
「必要ない」

 あまりにあっさり言われて、璃子は自分の提案が拒否されたとはすぐにはわからなかった。

「水上には光熱費込みの家賃を提示した。それ以上の対価は要求していない」
「対価とか……そういうんじゃなくて、ただの気持ち、お礼のつもりだったんですけど……」
「その気持ちだけもらっておく。俺は帰りが遅いから、外で食べたり弁当を買って帰ったり、いろいろなんだ。気を遣わなくていい」

(本当に文字通り間借りをするだけなんだぁ……)

 マンションの同じ部屋で、バストイレ、キッチンは共用するけど、友達でもなんでもない。

(ま、一応上司と部下だし、他人として線を引いている方が楽でいっか)

 璃子が黙ってアイスカフェオレを飲んでいると、達樹が口を開いた。

「それから、この同居の話は他言無用だ」
「つまり、誰にも言うなってことですか?」
「その通り。水上もその方が都合がいいんだろ?」
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