フキゲン課長の溺愛事情
 オートロックの解除ボタンを押した。彼が三階に上がってくる間に、ボストンバッグとキャリーバッグを玄関に運んだ。玄関ドアを開けると、ちょうど共用廊下を歩いてくる達樹の姿が見えた。会社にいたときと同じ、ホワイトのワイシャツにブラックのパンツ姿だが、ネクタイはもう締めていない。

「ご迷惑をおかけします」

 璃子は達樹に向かって頭を下げた。

「気にするな。荷物はそれだけか?」
「いえ、中に衣装ケースがあって……重いので手伝ってもらえますか?」
「わかった。部屋はどこだ?」

 璃子はドアを開けたままストッパーで止めた。達樹の先に立って、ベッドルームまで案内する。

「それじゃ、始めるか。衣装ケースは俺ひとりで運ぶから水上は玄関の荷物を頼む」
「はい」

 達樹が衣装ケースを持ち上げたので、璃子は先に部屋を出た。玄関でキャリーバッグの上にボストンバッグをのせ、達樹が出てきたところでドアを閉める。そうして一緒にエレベーターに乗って一階に下りた。

「俺の車はあそこだ」

 達樹が顎で示したのは、来客用駐車場に駐められているメタリックブラックのSUVだ。彼があらかじめ後部座席を倒しておいてくれたので、そこに荷物を運び入れた。それから二往復して、もう一度部屋に戻った。最後の段ボール箱を持ち上げて、達樹が言う。
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