君を想う
「いいです。自分で行きます」
「バカっ、濡れるぞ」
「藤崎さんだって濡れるじゃないですか」
「俺が行くって」
「自分で行きます」
押し問答している内に持っていた傘が手から離れて道に落ちてしまった。
さっきよりも雨が激しくなり、藤崎斗真の髪が濡れている。
あっ……。
雨と傘と藤崎斗真の濡れた髪があの日見た出来事を思い出させた。
「いいから、待ってろ」
落ちた傘は藤崎斗真が拾って私に渡した。
私が無意識に傘を受けとると藤崎斗真はパッと駆け出してあっという間に姿が見えなくなってしまった。