君を想う
藍川が電車を降り俺も次の駅で降りた。
あの雨の日に、彼女が捨てぜりふを残し走り去った後、ある視線を感じ顔を上げると一人の女がこっちを凝視していた。
それが藍川との出逢いだった――――。
シンガポールから日本に戻り開発事業部にまた再配属されて数日が経ったある日、総務に用があり受付を通った。
おもわず足を止めそうになった。あの時の女がいたからだ。
幸い相手は、もう一人の受付嬢の方を向いていて、こっちには見向きもしなかった。
こっちは、あんな修羅場を見られて気にしていたのに……俺の事は覚えてないのか。
次に喫茶室で会った時もそんな素振りは見えなかった。
それどころか、じっとこちらを見ていて動こうとしない。
ちゃんと仕事をしろよ。
段々、イライラ度が増してきてしまう。
それに、コーヒーの淹れかた、どうにかならないのか。
ただ、そのまま淹れたって美味しくない。
「カップは事前に温めておく。それとお湯は直ぐにいれない方がいい。
沸騰したてより少し待って波立ちがおさまって温度がちょっと下がったお湯の方が美味しくなるんだ」
「そうなんですか…………」
やってしまった。
受付嬢を押しのけ、コーヒーを淹れてしまった。
受付嬢はポカーンとしている。