君を想う

そして……気が付いたら歩いていた。

「あっ、里奈!!」


その人に向かって――――。


近づいても、その人はまだ私に気付かない。
雨で濡れている顔は泣いているようにも見えた。


「あの、良かったらこれ、どうぞ」


その人は傘を差し出した私に初めて気付いたようにこっちを見た。


「私は友達の傘に入れてもらうからこれ使って下さい」

その人は驚いた顔で暫く私を見た後「いらない」と吐き捨てるように言って立ち去ろうとした。


「あっ、でもこのままだと風邪を引きます」

もう1度、渡そうとすると。


「誰だか知らないけど余計なお世話だ」

低く不機嫌な声で言われ……傘は振り払われ手から離れて落ちてしまい。
その人に、きっと睨まれて何も言えないでいると、その人は行ってしまった。


「里奈、濡れるよ。あの人、傘を落とすなんて酷いね」

近くに来た友達が自分の傘に入れてくれた。

「里奈の知り合い?」


「うん、でも……私の事は知らないみたい……」


落ちた傘を拾って壊れてないか確かめると汚れてはいたけど大丈夫そうだった。


「さっきよりも雨がヒドクなってきたね。早く帰ろうよ」

「うん」




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