君を想う
電車は混んでいて座れず扉側に立つと何も言わず私のあとに付いて乗った藤崎斗真は私の横に立った。
この時間ならもう少し乗客は少ないと思ったのに……。
電車が動きだし時々、ガタンッと揺れると周りの人の波に押され体が前のめりになってしまう。
暫くして、ガタンッとなったのに押されてない事に気付いた。
それから横にいたはずの藤崎斗真はいつの間にか後ろに移動していた。人波に押されてしまったのかな……。
私が掴んでいる手すりの少し上を掴む手はゴツくはないけど大きくて指が長い男の人の手だなと分かる。
その手にちょっと触れて見たくなってしまった。
男の人の手に触りたくなるなんて初めて。
酔ってて感覚がおかしいのかもしれない。
この人が後ろに立っていてくれるせいか押される事もない、何だか護って貰っているみたい。
などと思ってしまうなんて、やっぱり今日は変。
電車は駅を幾つか通り越し、もうじき降りる駅に止まる。
藤崎斗真が降りるのは多分ひとつ向こうの駅だろう。
「次で降ります」
「分かった。気を付けて帰れよ」
電車が止まり降りる前に、ちょっと振り返ると藤崎斗真は片手を上げた。
会釈をしてから電車から降りた。