君を想う
いつもとは違う乙女の瞳子さんに見いっている間に二人の男性は通り過ぎて行ってしまった。
「もしかして、この間、話していた憧れの人だったりして?」
「当たり。名前は藤崎斗真。ストレートの黒髪の方ね。私が受付に異動になる前に開発事業部にいたって事は話したことがあるよね。
彼は2年前に海外赴任で急にシンガポールに―――――。
仕事が出来るし、背が高くてイケメンでしょ。入社してからずっと社内の女子に人気があったんだよ」
背が高いんだ。背が高い人って女の人でも男の人でもいいなって思う。羨ましい。
「もう一人の無造作ヘアの方は中里亘って言って、そっちも人気があるみたいなんだけど。
彼も同じ開発事業部でイケメンで仕事もそこそこ出来るようだけど何て言うか軽いのよね。
女の子全員が恋人みたいな事を言ってるみたいだし……そういうのは、ちょっとね……」
女の子全員が恋人って……そん事を言う人がこの会社にいたとは……。
今さらだけどホントは二人の顔なんて、ほとんど見てなかったから無造作ヘアとかストレートの黒髪とか言われても良く分からない。
瞳子さんに見てませんでしたとは言いづらい。
「ねぇ……なんか様子が変ね。ちょっと訊いてもいい?里奈は、もしかして藤崎さんの顔を見てないんじゃないの?」
何で分かったんだろう?と不思議におもいながら頷いた。
「やっぱり顔を見てないのね。何で見ないの?私たちの目の前を通って行ったのに……見てないんじゃ説明のしようがないでしょ……」
「でも乙女の瞳子さんは、ばっちり見れましたよ」
「はあ?なに乙女って……」
「だって、瞳子さんが頬を染めて男の人に熱い視線を送ってるとこなんて初めて見たから珍しくてつい」
「あんたは……」
ホントに珍しい、いつもは冷静な瞳子さんなのに……。
瞳子さんは呆れたように私を見た。
この時はまだ、自分が開発事業部のエースと深く関わりを持つことになるとは思いもしなかった。