人格障害の子に恋をした
「無理しなくてもいいんだけど。もし良かったら、楽しいバンドを作りたいって思って。私と沙希ちゃんは同じ学科で、看護だよ。」
町田沙希が看護学科だということは知っていた。僕は彼女のことを知りたい。彼女に近づくことができるのなら、内心万々歳なのだ。しかし、急に舞い降りた奇跡のような話に果たして乗っていいのだろうか。
「わかった。俺ベースやるよ。えっと…、紺野さんよろしく。」
考えるより先に、答えていた。
僕は馬鹿か。
「ありがとう!本当に助かった。それと、真紀でいいよ。じゃあラインのグループ作るから、招待するね。ラインのID教えて。」
その後、IDのやり取りと、ライングループの参加方法について話して、真紀と離れた。
町田沙希は先程話していた男子学生とはもう一緒におらず、サークル長が差し入れしてくれた飲み物を、一人で取りに行っている最中だった。
今が、まさに話しかけるチャンスだと感じる。バンドの件で話しかける口実ができたし、今は交流会で、少しでも多くの人と関わる義務が僕にはある。
自分を納得させる方法をいくつもいくつも考えた。そして最後はそうすることが面倒になって、僕は勢いで駆け寄った。
「町田さん!」
話しかけてしまった。
彼女は振り返って、黙っている。いや、彼女が黙っているのが悪いのではない。話しかけた僕が、何か話さなければならないのだ。
「真紀さん、あ、紺野真紀さんが、俺にベースをやらないかってさっき話をして…」
とっさに話しかけたから、言葉に詰まってうまく話せない。町田沙希は微笑んでから口を開いた。
「え、うそ、私も真紀ちゃんに誘われたよ。ギターやってほしいって。」
「そう、それで、町田さんがギターだって聞いたから、話しかけたんだ。急にごめん。」
僕は自分が何を喋ってるのか殆どわからなかった。
「ううん。ありがとう。これからよろしくね。」
大人しそうに見えたが、意外と普通に話している。それはそうか。先入観だった。大人しそうだからといって全く話さない人など居ない。
「それ、お茶?」と僕が訊いた。話を続けたかったからだ。
「そうだよ。」
「ジュースとかコーラとかじゃないんだね。」
「私あんまり甘い飲み物って飲まないんだ。」
また微笑んだ。一見してみると可愛い、で済むのだが、儚さを感じる。僕は頭が参ってしまったのだろうか。
「渋いな。なんとなく意外。」
「ははは、意外ってよく言われる。」
こんなふうにも、笑うんだな。
「町田さん、バンドの連絡のとき必要だと思うから、ライン教えてくれる?」
バンドの連絡、を強調して僕は何気なく言ってみた。
「うん。わたしのID、これ。」
そう言ってスマートフォンの画面を僕に見せた。それを持つ手はとても小さくて、白かった。
「オッケー。友達追加しておいたから、町田さんも後でいいから、しておいてね。」
「わかった。えっと、ごめん、名前…」
そこではっと気付いた。僕はずっと彼女のことを勝手に考えていたのだが、彼女は全くもって僕の存在すら知らず、今回が初対面だったのだ。
「新藤彰。名乗るの遅くなってごめんね。よろしく。」
「ううん、こちらこそよろしく。それじゃあ、またね。」
もう一度笑顔を見せてから町田さんは去っていった。
町田沙希が看護学科だということは知っていた。僕は彼女のことを知りたい。彼女に近づくことができるのなら、内心万々歳なのだ。しかし、急に舞い降りた奇跡のような話に果たして乗っていいのだろうか。
「わかった。俺ベースやるよ。えっと…、紺野さんよろしく。」
考えるより先に、答えていた。
僕は馬鹿か。
「ありがとう!本当に助かった。それと、真紀でいいよ。じゃあラインのグループ作るから、招待するね。ラインのID教えて。」
その後、IDのやり取りと、ライングループの参加方法について話して、真紀と離れた。
町田沙希は先程話していた男子学生とはもう一緒におらず、サークル長が差し入れしてくれた飲み物を、一人で取りに行っている最中だった。
今が、まさに話しかけるチャンスだと感じる。バンドの件で話しかける口実ができたし、今は交流会で、少しでも多くの人と関わる義務が僕にはある。
自分を納得させる方法をいくつもいくつも考えた。そして最後はそうすることが面倒になって、僕は勢いで駆け寄った。
「町田さん!」
話しかけてしまった。
彼女は振り返って、黙っている。いや、彼女が黙っているのが悪いのではない。話しかけた僕が、何か話さなければならないのだ。
「真紀さん、あ、紺野真紀さんが、俺にベースをやらないかってさっき話をして…」
とっさに話しかけたから、言葉に詰まってうまく話せない。町田沙希は微笑んでから口を開いた。
「え、うそ、私も真紀ちゃんに誘われたよ。ギターやってほしいって。」
「そう、それで、町田さんがギターだって聞いたから、話しかけたんだ。急にごめん。」
僕は自分が何を喋ってるのか殆どわからなかった。
「ううん。ありがとう。これからよろしくね。」
大人しそうに見えたが、意外と普通に話している。それはそうか。先入観だった。大人しそうだからといって全く話さない人など居ない。
「それ、お茶?」と僕が訊いた。話を続けたかったからだ。
「そうだよ。」
「ジュースとかコーラとかじゃないんだね。」
「私あんまり甘い飲み物って飲まないんだ。」
また微笑んだ。一見してみると可愛い、で済むのだが、儚さを感じる。僕は頭が参ってしまったのだろうか。
「渋いな。なんとなく意外。」
「ははは、意外ってよく言われる。」
こんなふうにも、笑うんだな。
「町田さん、バンドの連絡のとき必要だと思うから、ライン教えてくれる?」
バンドの連絡、を強調して僕は何気なく言ってみた。
「うん。わたしのID、これ。」
そう言ってスマートフォンの画面を僕に見せた。それを持つ手はとても小さくて、白かった。
「オッケー。友達追加しておいたから、町田さんも後でいいから、しておいてね。」
「わかった。えっと、ごめん、名前…」
そこではっと気付いた。僕はずっと彼女のことを勝手に考えていたのだが、彼女は全くもって僕の存在すら知らず、今回が初対面だったのだ。
「新藤彰。名乗るの遅くなってごめんね。よろしく。」
「ううん、こちらこそよろしく。それじゃあ、またね。」
もう一度笑顔を見せてから町田さんは去っていった。