人格障害の子に恋をした
 サークル室に入ると、既に真紀が居て、ドラムを叩いていた。かなり上手い。完全に自分の世界に入っており、ドラムの音が大きくて、僕が部屋に入ってきたことに気がついていないようだった。

 僕はベースをケースから出してアンプに繋ぎ始めた。

「あ、新藤くん!おつかれ!来てくれたんだね!」
ようやく真紀が僕の存在に気がついた。

「おつかれ!ドラム上手いね。」

「ありがとう!実は吹奏楽部でやってたんだ。今日はがんばろうね!」
真紀はそう言うとまたドラムを叩き始めた。


僕はチューニングを済ませて、今日合わせる曲の練習を始めた。


 「ごめん、遅れちゃった!」
沙希が部屋に入ってきた。

彼女は急いでギターを取り出しチューニングをして、アンプに繋いで、エフェクターで音を歪ませながら、演奏の準備をしている。

クリーム色のエレキギターは、清楚な印象の彼女によく似合っている。


真紀が、町田さんに呼びかけた。
「沙希ちゃん!準備オッケー?」

「うん。オッケーだよ。」

真紀は僕のほうも見たので、すかさず僕は声を出した。
「俺も大丈夫。合わせよう。」

「じゃあ私がドラムスティックを4回打ったら沙希ちゃんが入ってね。」

カンカンカンカン、と真紀かスティックを打った。軽快なギターミュート音が部屋に響く。 

ギターを弾く沙希を見て、意外性を感じた。

この子が、エレキギターをこんなに上手に弾くようには、見えない。右手で持つピックは弾むように弦を叩いて、左手はしっかりと弦を押さえていてその腕はたくましい。


真紀が目で合図したので、僕は真紀と一緒に音を鳴らした。

バンドは初めてだった。感情を高ぶらせるドラムの音と、爽やかなギターの伴奏に、僕のベースが敷かれている。
 

ああ、バンドって気持ちがいいな、と思った。


「良かったよー!2人とも上手いし、入ってくれて本当ありがと!最高だった。またラインするから、合わせようね!」

真紀はそう言いながらスティックをしまう。

「私、バイトあるから、お先に失礼します!後はよろしく!」
満面の笑みで真紀はサークル室を後にした。


 町田さんは「おつかれさまー!」と真紀に手を振ってからは、黙って楽器や機材を片づけ続けている。話しかけていいのだろうか。

「町田さん、どこに住んでるの?」

「えっ、あ、神城県の永川市ってところ。田舎だよ。何もないところ。」
へへ、と笑いながら答えてくれた。

「俺も神城県!千緑市に住んでるよ。」

「うわっ、都会だー。」
げーっと言いたげな表情で町田さんが言った。

「そうでもないよ。」

「緑千市なら、私がいつも乗り換える駅があるところかな。緑千駅から乗ってる?」

「そうそう、そこから大学の最寄り駅まで大体15分くらい。」

待てよ。帰りが同じ方向なんだ。15分間は町田さんと同じ電車なんだ。
< 7 / 16 >

この作品をシェア

pagetop