B級恋愛
「ところでさ、相崎さん」

口の中のキッシュをコーヒーで流し杏子に声をかける。キッシュを頬張り市川を見る。

「式終わってからしばらく経つけど妹さんに会ったの?」

「無いですよ。私彼女たちを避けていますから」

キッシュをのみ込みこう言いきる。

「避ける理由は何?」

「禿が嫌いだからです」

「言っている意味わかんねぇんだけど」

ごもっともである。禿が嫌いだから避けるなんて意味不明だ。そもそもそれは理由にならない。

「職場にもいるだろう、禿ならば」

市川がいう禿が誰のことか杏子も知っている。市川と同じ職位にある人物の事だ。

「いや…彼は平気ですよ。必要以上に関わりませんから」

「益々わかんねえ…」

杏子の説明に市川はため息をつく。

「禿は遺伝するって言うじゃないですか。相崎家の男の人…私の祖祖父は禿ていたらしくて…父も危ないっていうか…」

「それとどういう関係があるんだよ?」

苛立ちを感じているようで口調が強くなる。

「身内の男達はみな禿になるんですよ?それに―――」

「何だよ?」

さっきまでの勢いはどこへやら。しゅんとなった杏子を見る。

「私的に夜の生活を共にするなんて無理です、ジャニーズの禿と芸人の髪の毛ある人どっちがいい?って聞かれたら髪の毛がある芸人をとります」

「それ完全に相崎さんの問題でいも――」
「だからもう身内に禿は要らないんですよ、精神的に受け付けないんです」

今生きている禿の方々に同情の念を送りたいと市川は思っている。ここまで禿を拒絶する事はないだろうに。彼らとて好きでそうなってしまったわけではないのだ。

「この年齢になると結婚相手に選り好みしている場合じゃないけど、今生きている禿の皆さんにはごめんなさいだけど無理です、結婚なんて尚更―――」

杏子は一通り力説すると飲み物を流し込んだ。
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