B級恋愛
この日は非常に慌ただしく感じた。
プールの掃除に半数近くがかり出される。掃除自体は単純な作業ではあるが体力を半端なく奪う。
僅かな休憩時間でさえ倒れ込んだらアウト。睡魔の餌食だ。
ふと顔を上げる。睡魔の餌食になってしまった失態をぼやく。事務所に戻り水分を補給する。なんとか意識を取り戻せた気がしてプール清掃に向かった。

昼休みが終わりジムの清掃をする。清掃作業ばかりで体は限界に来ているがあと少しでお風呂だと奮いただせる。そうすれば少しは疲れが癒えるものだ。それがここでの仕事の支えになっている。

「お先に失礼します」

時間になり事務所にいる遅番のメンバーに声をかける。

「お疲れ―」

遅番のメンバーの声を背中に受けて杏子はお風呂に入る準備をした。

営業時間内なのでお客さんはまだいる。挨拶をして中に入り、適当に陣取り身体を洗う。

(入浴シーンタダで…)

慌てて頭からシャワーをかける。いつかの市川の言葉が浮かんだ。

もっともまだ営業中だから入ってきたら大問題―――なのだが

「失礼しまーす」

温度計を持った遅番の女性社員がお湯とお水それぞれの温度を計る。

「熱くないですか?」

「うん。平気」

彼女にこう返して頷いた

「お先に失礼します」

「お、お疲れ」

事務所内に顔を出すと市川が声をかけてきた。パソコンに向かっている姿を見るとまだ仕事が残っているのだろう。冷蔵庫を開けて飲みかけの飲み物を取り出して喉に流し込む。冷たい感触が湯上がりの火照った身体を冷ましていく。

「お先です」

受け付けにいる遅番者にも声をかける。

「お、お疲れ」

男性社員の声に送られて受付の傍にあるペットボトルを入れるゴミ箱に捨てると職場を出た。
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