B級恋愛
仕事明けの休日のあくる日。
妹夫婦が来るらしい。杏子は愛犬とともに家を出された。

(どう考えてもおかしい―――)

頭の中にこんな思いが浮かんだのは何度目だろう。吠えたててうるさいから―――愛犬を出す。そもそも犬が吠えたてるというのは当たり前の事。誰だって自分のテリトリーに土足で入られるのは嫌だ。犬でなくとも。

(トイレ行きたい…)

こんな思いがふと過る。けれど今いけば妹夫婦がいるだろう。会うのは避けたい…が
(何であたしが遠慮しなきゃ行けないのさ)

例えがたい憤りが思考を支配する。

「まだあたしの家だ。なんで遠慮する必要がある?」

誰が聞いているわけではないが口に出して呟く。―――遠慮する必要がどこにあるのだと握りこぶしをつくる。

「行こっ」

杏子は愛犬を引き連れて家に向かった。

家に着くなりすぐさまトイレに向かう。幸いなことに弟が出てきたので彼に愛犬を任せる。ドアが閉まっていることもあって素通りしていく。
トイレから出てくると自分の洗濯が終わっているのに気づく。かごの中に入れていく。
「コインランドリーに行くのか?」

「うん」

弟に声をかけられて頷く。

「早くしろ、連れていくから」

弟に促されて杏子は彼に続いた。

コンコンコン…

「はい」

リビングのドアを叩くと威張り腐って座る父親の声がした。

「こんにちわ、姉の杏子です」

すでに式を済ませて知った顔ではあるが正座をし、三つ指をついて挨拶をする。つられて彼が仕来たり通りの挨拶をしてきた。妹は無視を決めつけたのか顔を合わせようともしない。別に構わないし杏子からしてみたらどうでもいい事だ。その奥で父親は目を見開き母親は黙りになる。杏子はそんな彼らを完全に無視した。

「時間が出来たらトレクラにも来てくださいね、お待ちしておりますから」

「はい、時間が出来たら行きます…」

彼もぎこちない挨拶を返す。

「では私は出掛けてきますのでごゆっくりどうぞ」

満面の笑顔、勿論会社仕込みのを浮かべ立ち上がると部屋を出た。

「何あれ、他人行儀みえみえだけれど?」
さっきの杏子の態度が気にくわなかったんだろう。口調からは憤りを感じ取れる。

「誰だって2、3枚は猫被っているでしょ?だからそうしたまでだけれど?」

杏子がこう返すと彼は黙りになる。ここまで来ると何をいっても無駄だと言うことをお互い分かっているのだ。
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