B級恋愛
勤務明けの休日のある日。なぜか早くに目が覚めて下におりる。父親と母親がテレビに観ている。特に気にすることなく蛇口を捻りグラスに水を注ぐ。喉を潤すと再び2階に上がり身支度をすませる。
これでもかというくらいの梅雨の晴れ間。太陽の光がベランダから差し込んでくる。特に予定はない。溜まっている洗濯物を片付けなければと思うくらいだ。部屋も幾分片付けなければと思うと肩を落としたくなるが立ち上がり物を拾い集めた。
部屋の掃除には半日もかかった。溜めていた洗濯物を洗いコインランドリーで乾かす。その間はすぐ側のスターバックスでフラペチーノを飲み携帯をいじる。フラペチーノの氷は幾分か溶けてしまっている。杏子にとっては唯一の癒しだ。ジャズミュージックは耳に心地よくて時間を忘れさせてくれる。この時間はまさしく―――

「よぉ。また会ったな」

声をかけられて顔をあげる。そこには市川の姿があった。

「こんにちわ」

何をどうかえしても無駄に終わることくらい学習した。だから簡単な挨拶をする。

「一人でなにしてんの?」

彼女の目の前に座り顔を覗き込む。

「携帯小説を書いているんです」

「携帯小説?」

確かに杏子の手には携帯が握られていて沢山の文字が打たれていた。それが小説となっているのだろう。―――市川には縁の無さそうな世界ではあるが。

「携帯で小説かぁ…小説って本として読むだけじゃないんだな」

「今時本と言うものを買う方が希だと思いますよ…?こうして携帯で書いている人もいますからね」

杏子はこう返しながら文字を打つ手を休めることなく進めていく。市川もはじめはそれを見ていたが自分の携帯を取り出していじり出した。
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