罪深き甘い囁き

たかが文字。
けれど、初めて呼び捨てにされて、胸は高鳴る。


「遥、具合でも悪い?」


悟に突然聞かれて動揺した。


「ううん、大丈夫。ちょっと飲みすぎちゃったかな」


ルームミラーに映った悟の眼差しを直視できない。
そんな私の反応を楽しむかのように、橘さんの指先がまた動き出す。


【二人で消えようか】


「え?」


思わず出た声に、悟が「どうかした?」と、ミラー越しに私を見る。


「あ、ううん……」


橘さんは、意味深に微笑むばかりだった。


「悪いけど、そこのコンビニで停めてもらってもいいかな。ちょっと買いたいものがあるんだ」


橘さんの言葉に「分かりました」と車を止めた悟。
橘さんは、私にも降りるよう目で訴えた。


「……悟、あの……」

「どうした? 遥はトイレか?」


聞かれて俯く。
先に降りた橘さんは、悟に気づかれないようにそっと私の様子を窺っていた。

橘さんの感触が残る右手。
欲する甘い熱。
早くなる鼓動が私を急かす。

後部座席のドアに、緊張で震える手を掛けた。


「悟、私……」



―背徳の指先 fin―
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