ひぐらしの唄
第二章
毎朝親父に弁当を届け、彼女に会うー
「澤村、おはよう」
「おはようございます、あお……ううん、新垣さん」
恥ずかしそうに挨拶した。
「あ……いや、さんなんて堅苦しい、あおでいいよ」
「でも……新垣先生の息子さんだし、それに……」
「それに?」
蒼白い顔がみるみるうちに赤くなっていく。
何だか可愛い……
「さ、病院の中だけど、どこ行きたい?」
「外に……行きたい……」
「でも、また倒れるぞ、いいのか?」
「うん、先生や蒼く……んには迷惑……かけないから……」
「じゃ、少しだけな?またあんたが倒れられると親父がうるさいから」
少し悲しい顔をしたー

「あの……手をつないでくれませんか……?」
いっぱいいっぱいの言葉
「いいよ、これくらい」
悲しい顔が一瞬にして明るくなった。
うぐっ……この笑顔、反則だ……
冷たい手をとり外に出た。
時々俺の顔を見ている。
目が合うと真っ赤になる。
この娘、以前から俺を知っているー?
そんな感じがした。
「今日はそんなに暑くないからいいね、でも疲れたら俺に言えよ?」
「うん、ありがとう……」
「あんた……澤村はいつからここに?」
「私が7つの時からかな……生まれつき身体が弱く、よく病気してた。母さんにも迷惑ばかりかけてしまって……私の所母子家庭なんだ、私が産まれる前に父さんが亡くなって……だから母さんだけには迷惑かけたくないけど迷惑かけてしまって……」
俺と同じなのにこうも違うんだ、本当に心が強いんだな、俺と違って母さんが死んでからはいつもウジウジしてた。
父さんにも迷惑かけて、死んだ母さんにも……
「私ね、いつも病室の窓から青空を見てたの、とても綺麗で大好きなんだ。だから次は外で見たいなっていつもここで見ているんだ」
少し赤く汗ばんでいる?
「中に入ろうか、疲れているみたいだから……あ、そうだ澤村は何が好き?」
「笑わないでね?あの……私……白玉あんみつが好き……なの……だから母さんが来たときはいつも買って来てくれて食べているの、でもすぐ戻しちゃうし……だから病気が治ったらいっぱい食べたいなって……」
「じゃあさ、澤村が元気になったらさ、その……俺と一緒に食べようか?」
「え?いいの?あんみつなんて女の子が食べる物だよ?それに蒼くん甘いもの……」
「一度、母さんと食べたことあるんだ、恥ずかしながら、甘党なんだ。だから……」
俺、きっと真っ赤だよな……それに男が甘党なんてドン引きだよな……
「行きたい、絶対行きたい!嬉しい、ありがとう」
「じゃ、約束な」
でもその約束も果たせなくなってしまったのはまだ先の事ー
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