ひぐらしの唄
第五章
若菜に告白をしてあれから彼女に会えてない、いや、親父が会わせてくれない。
「なあ、若菜って調子どう?」
「どうしてそんなこと言うんだ?」
親父が話をそらす。
「どうって、ここ2週間会ってないし、どうなんかなって……まさか若菜……」
「大丈夫だよ、ただ身体が優れなくお前に迷惑かけたくないって言っているだけだ」
何だか腑に落ちない……
何か俺に隠している……?
会いたい、若菜に触れたいー
それが悲しい終わりを告げることになる……
あれからさらに2週間、まだ1度も若菜に会えてない。
若菜はどうしているのだろう……
会いたい、会いたい、若菜の笑顔が見たい
「父さん、若菜はどうしてる、若菜に会いたい」
親父が眼を反らす。
「いや、その……」
たまらず親父の襟首を掴んだ。
「何を隠してんだよ!若菜はどうなんだよ!」
親父が観念したのか口を開いた。
「彼女は今は危篤状態だ、今日か明日が峠だろう……」
頭が真っ白になった
「う……そだろ?前までは普通だったのに……
何かの冗談だろ?」
「お前に会って次の日に体調を崩してそれっきりだ」
俺があの時海に行かなければ、若菜は身体を悪くしないで済んだんだ……
突然ドクターコールが鳴った。
「新垣先生、204号室の澤村さんの容態が……!」
若菜の病室だ……
「今行く!」
俺と親父は病室に向かった。
病室に行くと鳴り響く機械音、身体にはたくさんのコード、点滴、それに愕然としたのは痩せ細った若菜の姿……酸素マスクがつけられている……
「若菜……?」
親父が必死に心臓マッサージをしている。
「若菜ちゃん、聞こえるかい?今蒼がいるよ、分かるかい?」
若菜をまともに見れない……足がくすむ。
「蒼、こっちに来て若菜ちゃんの手を握ってやれ」
嫌だ……触れると折れそうだ……
「あ……お……く……?」
若菜が声を今にも消えそうな声で……
「若菜……どうして……」
痩せ細った手を握った。
それはとても冷たく、雪のようだった。
「ごめん……ね、うそを……ついて……」
若菜が俺を見つめた。
痩せ細っていたけど、俺の好きな若菜だ……
「若菜……どうして……」
「ありが……とう……私に生きる希望をくれて……あなたに会えて、好きになってくれて
本当に……うれし……かった……」
「もう、しゃべるな、元気になったら二人で白玉あんみつ食べに行くんだろ?だから……!死なないで……っ」
「そう……だね……約束……守れないや……ごめんね……」
「若菜っ……頼むから、生きてっ……!」
「蒼くん……お願いがあるの……いい?」
「何?」
自分から酸素マスクを外し、優しい笑顔で言った。
「最期に……キス……して……?」
「そんなことより、酸素マスクを……!」
最期の力で俺の手を握った。
「お願い……!」
若菜……
俺は若菜の頬に手を触れて優しく唇にキスをした。
それはとても暖かく、優しかった。
若菜は一筋の涙を流して息を引き取った。
病室に鳴り響く機械音。
「わか……なっ、若……っ」
ー!!
俺は母が亡くなって以来大声で泣いた。



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