SEXY-POLICE79
桐野は金槌を追う女の所に向かう。あれさえ奪ってしまえば≪呪詛≫は未完成のまま、あとは草間が丁重に鎮めてやればいい。桐野は初めて目にする霊に少し戸惑いを感じながら女よりも早く金槌奪還に成功。これで女は何もできない。女は返してと殺意のこもった念の塊を桐野に放つ。直撃だ。地に膝をつき咳き込むと口から赤い血が吹き出でる。どうやら傷口が開いたようだ包帯の上から赤い染みが滴り出す。

桐野は思った。自分よりも年下のこのガキがこんな痛くて辛い仕事をしているんだと。『死神』なんて死んだ霊の魂をあの世に送ってやる、そんな簡単な仕事だと思ってたけど本当はすごく骨のいる仕事なんだな、草間。お前はそうやって辛いことも苦しいことも全部自分一人で抱えてきたんだな。こんなたった十六という若い生命のなかで。桐野は立ち上がり、女との距離を縮めていく。女は驚いて来るなと叫ぶ。

《ジャマヲスルナ!!ジャマヲスルナ!!ナニモシラナイクセニ、ワカッタヨウナカオヲスルナ!!》

念の塊を何個も生み出して、女はそれを桐野警部補めがけて放つ。どんっどんっと砂塵が舞い、直撃しているはずなのに桐野は諦めず立ち上がって女に近づいていく。

「――もう、大丈夫だから」

あんたはもう苦しまなくていいんだ。
大切なものを失うのは苦しいし痛い。でも、こんなことをして何になるっていうんだ。復讐なんてしたって、呪ったって何も残らない、何も生まない。そんなこと、相手のほうは頼んじゃいないんだ。あんただってわかっていたはずだ。こんなことをしたって大切なものは戻ってこないってことが。

< 215 / 223 >

この作品をシェア

pagetop