SEXY-POLICE79
城央署刑事課。桐野はデスクに向かってある分厚い一冊のファイルを見ていた。それはこの腕につけてあるブレスレットと関係の深いものだった。ファイルには「吸血事件」と書かれている。あの時の自分はまだチカラについて何もわかっていなかった。生きている人間か死んでいる人間かの見分けぐらいはついていたのに。それだけではなかったのだ。とくに自分のチカラはただ霊が見える、というだけではないらしい。詳しくはまだ教えてくれなかった少年。彼はいったい何者なのか。そして自分もまた、一体何者なのか。桐野にはわからない。わからないからその答えを見つけたい。わからないからまたあの少年に会わなくてはいけない。いや、会えるるような気がした。またあの少年に自分は。

桐野がいつになく真剣にデスクに座っている。柳沢はそれが不思議で仕方なかった。いや他の者たちも同じ事を思っているだろう。かといっていつもさぼっているという訳ではない。彼は仕事だけはいつも真剣にやってくれているし人当たりもよく仕事上では頼れる存在だ。が、しかし。今回は少し真剣過ぎると言うか近寄りがたい雰囲気がたちこめていた。ファイルの確認が済んだのか桐野は息をつく。それでも彼の眉間には険しいしわが刻まれていた。本当に何をそんなに悩んでいるのか柳沢はちらりとファイルの名前を見る。それは柳沢にも覚えがある事件だった。

吸血事件。その事件はあるひとりの目撃者によって解決したとされる事件である。そしてその目撃者はいま、分け合って彼の自宅へ居候しているのだ。

彼の目は今、どこを見ているのか天井を向いたままため息をつき続けている。本当にどうしたものか。心配になった柳沢は大丈夫ですかと訊ねる。桐野は少し目線をこちらに向けたものの静かにああと答えただけでまた上を見た。上に何があるわけでもなく柳沢はもうお手上げだった。けれど桐野にとってはただ上を見ているだけではなかったのだ。普通の人間には見えないもの。上を見ながら桐野は考えていた。自分のチカラについて今一度深く考えていた。そして今後の人間生活も振り返る必要があった。

「柳沢くんどうかしたのかい?」
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