SEXY-POLICE79
残り五分、桐野たちは患者全員に避難勧告を下した。詳しいことは数人の看護婦や医師たちにしか話していない。患者たちには不安や怪我の負担にならないよう急な避難訓練として避難してもらった。

西塔は霊安室の壁影に腰を下ろしていた。かちかちと音を立てて短くなっていく自分の命の時間。いまさらだけれど少しこわい。でも決して後悔などない。後悔なんてあるものか。でもどうしてか西塔の目じりから涙がこぼれる。
後悔はないはずなのに自分が決めたことなのに。

「…やっぱ裏切り者は……こうなる運命なんだよな」

五分後、霊安室から激しい爆発が起こった。炎は高々と炎上し天へとのびていく。桐野は悔しさを胸に地面を叩き付けた。叩いて叩いて桐野は泣いた。その彼を自分は見ているしかなかった。かけるべき言葉がこのときの自分には思いつかなかったのだ。数分後、連絡を受けた消防隊が到着し霊安室の炎は一時間にわたる消火活動により消えた。そして一人の人間の遺体が発見された。遺体といってもまっさら骨が残っているわけではなく、ましてやきれいな死体でもない。桐野は見ていられなかった。須田も思わず目をそむけてしまう。袋の中から覗く黒く焦げた骨は無残にも部分部分が欠けていた。また一人、自分の前から消えていく――――。

  


   ☆☆




『さぁゲームはまだ始まったばかり、存分に楽しみましょう』

「これが…ゲームだと」

携帯電話に響く犯人の笑い声に、桐野の怒りはもう爆弾のように爆弾する寸前だ。犯人はそれをわかっているのか、煽るような口ぶりでさらに続ける。

『さて、次の犠牲者は誰にしましょうか』

「こんのッ。まだしたりねーってのかよっ」

『僕はヒトを殺すことに生き甲斐を感じています。ヒトはあまりにも醜く、弱く、脆い生き物だ。そんな弱い人間は最初からこの世にいないのと同じ』

「だからってなぜ警察官ばかりを狙う」

「さぁ、どうしてでしょうね」

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