SEXY-POLICE79
桐野の目が大きく見開かれ、手から携帯が滑り落ちる。立ち尽くす桐野に、微笑を浮かべ近づいてくる悪魔の音。須田には面識があった、彼もまた須田を知っていた。ぶつかり合う互いの視線に溢れ出す怒り。

「また、会いましたね。須田検事」

「……須田さん…知ってるんですか?」

「…ちょっとね」

彼が自分を撃った犯人だ、なんていまの桐野警部補に言えば何をするかわからない。ここはさらりと返すべきだ。

「また隠し事、ですか。無駄なことを」

クスクスと鼻先であしらってから深帽子をかぶった男は次に桐野に目線を向けた。ぎくりと身が竦む。口元に浮かぶ不気味な笑みに寒気がはしる。なんなんだこの感じは。すぐに桐野はこの男からいやな感じがした。いくら須田と顔見知りとは言え彼は信用できない。桐野が身構えていることを知った彼は唇を吊り上げる。誰もが息を飲む光景だった。あまりに一瞬な出来事で叫ぶことも出来なかった。桐野は驚愕のあまり言葉もない。ただ口から血の味がしてぼとりと塊を吐き出している。腹にある小さな違和感。人々の悲痛な悲鳴が桐野の耳朶にいたく響く。ぬるりとした生暖かいものがぽたぽたと滴り落ちる。腹から背中にかけて突き刺さっている肌色の血の着いた手。激痛があとになって駆け巡ってきた。痛みに寄りかかる桐野を背に担ぎ、勢いよくその手を引き抜く。その瞬間、桐野の傷口からはまた大きな出血が流れていた。桐野の顔が痛みと貧血に蒼白する。




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