あの頃の私は知らない。
「あ、えっと、それで、抹茶ラテはホットでよろしかったでしょうか?」
チーフが来たことで我に返り、注文の続きを取る。心臓はいまだうるさく音を立てていた。
「え、……ああ、はい」
「ありがとうございます、お会計390円でございます」
ホットの抹茶ラテね、と言いながらチーフが作り始めるのを横目にお金を受け取る。
「110円のお返しとレシートでございます。少々お待ちください」
「宇佐美」
短く呼ばれた名前に、すっと背筋が伸びた。そっと視線を上げて、彼の目を見る。
「俺は今も、音楽続けてるよ」
きらきらとしたその瞳は、あの頃の彼とまったく変わっていなかった。