あの頃の私は知らない。
朝6時半の音楽室
「失礼しまーす……」
朝6時半。こんな時間から学校に来たのは初めてで、そもそも開いているのかどうか不安だったけれど、ちゃんと学校に入ることができた。
どきどきしながら、そろりと職員室のドアを開ける。音楽室の鍵を取るためには必要不可欠だった。
「誰だ?」
低く響いた声に、思わず背筋が伸びる。視線を上げると職員室の中に人影がひとつ。
学校と職員室が開いているということは、もちろん先生がいるからだということは分かっていたけれど、いざ声を掛けられると緊張して動けなくなった。
どうしよう、と思いながらドアのところで立っていると、向こうからその人影が近付いてくる。名乗らないと、と思っても声が出なかった。
「……ああ、なんだ。宇佐美じゃないか」
「お、おはようございます!」
その声を聞いて心底ほっとした。現れたのは私たちの学年主任の先生だった。