あの頃の私は知らない。
園田くんは案の定、音楽室の前に座り込んでいた。
「園田くん」
静かな廊下に私の声が響く。ぱっと顔を上げてこちらを向いた園田くんは、驚いたように目を見開いた。
「わ! 本当に来た」
「え……、えっと、来たら駄目だった?」
「違う違う、来てくれると思わなかったって意味!」
そう言って笑顔を浮かべる。少し長いグレーのズボンに半袖のカッターシャツ、赤色の名札。赤色は私たち一年の学年カラーだった。
「だって園田くん、本当に来てそうな気がして」
「来るよ。だって教えてほしいもん」
「あ、うん、そっか」
何だかその笑顔が眩しくて、心がきゅっとした。そこから目を逸らすように、音楽室のドアを開ける。
「宇佐美、鍵取りに行ってくれたの? ありがとう」
「園田くんは取りに行ってないだろうなって思って」
「うわ、ばれた」
「それくらい何となく想像ついたよ。……って、え?」
「ん?」
驚いた。というより、ぽかんと口が開いた。